大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成3年(ヨ)759号 決定

債権者

共栄工業株式会社

右代表者代表取締役

林映子

右訴訟代理人弁護士

笹川俊彦

井上進

大砂裕幸

権藤健一

谷宜憲

右笹川俊彦訴訟復代理人弁護士

江後利幸

債務者

総評全日本建設運輸連帯労働組合近畿地方本部

右代表者執行委員長

吉田伸

債務者

全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部

右代表者執行委員長

武建一

右両名訴訟代理人弁護士

中北龍太郎

主文

一  債権者が、各債務者に対し、それぞれ金五〇万円の担保を、この決定の送達を受けた日から七日以内に立てることを条件として、

1  債務者らは、その所属する組合員或いはその支援団体に属する第三者をして、別紙物件目録一ないし三記載の土地に立ち入らせ、或いはその付近に佇立、徘徊させるなどして債権者の営業を妨害させてはならない。

2  債務者らは、その所属する組合員或いはその支援団体に属する第三者をして、債権者が別紙物件目録一ないし三記載の土地からその取引先工事現場へ、または債権者の取引先が右土地へ、セメント、生コンクリート及びその材料その他の土木資材を搬出若しくは搬入するのを、実力をもって阻止妨害させてはならない。

二  申立費用は債務者らの負担とする。

理由

第一申立て

一  債権者

主文一項中の立担保を命じた部分を除き、主文と同旨

二  債務者ら

本件仮処分命令申立てを却下する。

第二当裁判所の判断

一  当事者間に争いのない事実、本件疎明及び審尋の全趣旨によると、次の事実が一応認められる。

1  債権者は、建設及び土木の設計・施工、生コンクリート(以下「生コン」という)・プラントの経営及び生コン製品並びに販売等を主たる目的とする株式会社であり、肩書住所地に本店を置き、滋賀県甲賀郡石部町大字石部字古道に所在する、債権者の代表取締役である申立外林義雄所有の別紙物件目録一ないし三記載の土地(以下「本件土地」という)外二五筆約一万坪を採石場などとして同人から賃借し、本件土地上に事務所建物を所有し、同所において採石・生コン製造を行い(以下本件土地及びその地上建物を「石部工場」という)、滋賀県内を中心として営業活動をしているものである。

2  債務者総評全日本建設運輸連帯労働組合近畿地方本部は、同中央本部の活動方針・決議に基づいて構成支部の活動を掌握し指導にあたることを目的とし、同目的を達成するため労働条件の維持・改善活動等の事業を行う組合である。また債務者全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(以下「債務者関西生コン支部」という)は、組合員の強固な団結の力により機関決定に基づき労働者の経済的・政治的地位の向上を計ることを目的とし、組合員の生活や待遇を良くしていくため、賃金の引上げや労働条件の向上のための活動をしているものである。

なお債権者には債務者ら組合に所属する従業員は存在しない。

3  滋賀県内には同県区域を地区として、生コンの製造を営む者を組合員として、昭和四八年四月、中小企業団体の組織に関する法律に基づいて設立された商工組合である滋賀県生コンクリート協同組合(以下「生コン組合」という)がある。同組合は、生コン業者の任意加入により構成されているところ、債権者は、生コン組合に加入しないで営業活動をしている。

4  債務者らは、生コン組合に加入しないで、組合加入業者よりも低い価格で生コンを販売する業者が存在すると、業者間で安売りの過当競争を生じ、生コンの価格が安定しないことにより、企業の存立が危うくなったり、生コンの品質が低下するなどし、その結果労働者の雇用不安や労働条件の低下を招くと考え、非加入業者に対し、生コン組合に加入させるための働きかけをしている。

5  債権者は、平成三年一月一九日、債務者関西生コン支部の執行委員である申立外松井秀雄(以下「松井」という)から、債務者ら組合の執行委員である旨の名刺とともに、生コン産業近代化推進委員会(以下「近代化委員会」という)作成名義の生コン組合加入に関する申込書(書証略)の交付を受けた。

また松井と債務者関西生コン支部の執行委員である申立外金谷猷三(以下「金谷」という)は、同月二六日、債権者の石部工場に赴き、同月一九日の右申入書に対する回答を求めたが、債権者の責任者が不在で生コン組合加入の件につき話合いをすることができなかった。

さらに松井は、同月三〇日、債権者の石部工場に赴き、債権者の常務である林康幸(以下「林常務」という)と会い、「労働者の安定のために生コンの値段を安定させなあかん。生コン組合に入ってもらえるのなら組合と話をつけてもよい。セメントの値段が安定するようになると、バラセメント車(セメントローリー車)の運転手も安定できるから」といった趣旨の申入れをして生コン組合への加入の斡旋を行ったが、これに対し、林常務は拒絶した。

林常務は、同年二月一二日、松井外一名と会い、再度生コン組合への加入を求められたが加入の件は拒否し、ただ松井の求めに応じて債務者関西生コン支部の代表者である武建一執行委員長(以下「武委員長」という)に会うことにした。

6  林常務は、同年二月一四日、大阪ロイヤルホテルで武委員長、松井ほか数名と面談し、武委員長から「従前の生コン価格を一立法メートル当たり約二、〇〇〇円値上げして一六、〇〇〇円とするとともに、共栄工業ほか数社ある非組合員がすべて生コン組合に加入してもらい、生コン販売についての滋賀県内のシェア割りをする。従前からの生コン組合の組合員との利害を調整しながら、非組合員の生コン組合への加入を進めたい。連帯が生コン組合との話合いの窓口になる」旨の申出を受けたが、これを拒絶した。

7  債務者関西生コン支部の副委員長で、近代化委員会の会長である申立外宮脇紀(以下「宮脇」という)と、債務者関西生コン支部の副委員長で、生コンクリートの品質管理を監視する会(以下「監視する会」という)の会長である申立外中岸昭治(以下「中岸」という)は、同年二月一九日、債務者らの組合員数名とともに債権者の石部工場に赴き、債権者の従業員に対し、同月二一日までに面談のうえ生コン組合への加入の回答がなければセメント搬入を実力で阻止する旨通告した。そこで、債権者は、滋賀県警水口署に警備要請をした。そして、同月二一日、債権者が本件土地上にある石部工場から取引先に対し生コンを搬出しようとしていたところ、債務者らの組合員が右工場の入口前付近で監視行為を始めたので、債権者は、生コンの出荷妨害をされては困ると考えて右水口署に警備要請をし、同日午前九時三〇分ころから午後四時三〇分ころまでの間、債権者従業員及び警察官が右工場周辺で監視行為をする債務者ら組合員の動きを注視していたが、債権者はトラブルもなく生コンを搬出することができた。また翌日の二二日も、早朝から債務者の組合員らが石部工場前で監視行為を開始したため、債権者は、再度水口署に警備要請をした。そして、同日午前九時二〇分ころ、宮脇や松井が工場入口付近で林常務に対し、生コン組合へ加入するように申入れてきたが、林常務はこれを拒絶した。ただ林常務は、同月二七日に松井や宮脇らと会って話をする旨回答した。そして、林常務は、同月二七日、宮脇らと会い、生コン組合への加入を拒否した。

8  債権者は、生コンの製造原料であるセメントの九割以上を申立外千原商事株式会社(以下「千原商事」という)と申立外株式会社和材(以下「和材」という)を通じて申立外東洋セメントから購入していたが、債務者らは、右千原商事や和材に対し、債権者にセメントを販売しないように申入れ、これを拒否する場合には右各社に対しセメントの搬出を実力で阻止する旨通告した。そこで、千原商事と和材は、債務者らとのトラブルを避けるため、債権者に対し、同年二月二五日以降のセメントの納入を中止する旨通知し、債権者は、右両社からセメントを購入することができなくなった。

また債権者は、申立外臨海セメント株式会社(以下「臨海セメント」という)を通じて韓国等の外国から輸入したセメントを販売していた申立外臨海資材株式会社(以下「臨海資材」という)からその輸入セメントを購入していたところ、債務者らは、右臨海セメント及び臨海資材に対しても、債権者を生コン組合に加入させるためセメントを債権者に販売しないように協力を要請し、その協力を拒否すればセメントの出荷を実力で阻止する旨通告した。これに対し、臨海セメント及び臨海資材が債務者らの要請を拒否したため、同年三月一日及び同月五日の二日間にわたって、債務者らの組合員約三〇名が臨海セメント及び臨海資材の工場に赴き、その入口前に立ち塞がるなどして、セメントを積載したセメントローリー車(セメント輸送車)の運行を阻止し、債権者などへ納入する予定であったセメント約一七〇トンの出荷を妨害した。

9  同年三月一二日午前九時三〇分ころ、債務者らの組合員約一六名(宮脇、中岸、金谷、申立外武洋一ら)が腕に連帯の腕章をし、胸に「交通事故・災害につながる過積載をやめよう」と書かれたゼッケンをつけて債権者の石部工場の入口前に集まり、また宮脇らが債権者の右工場事務所に行き、「今日警察と一緒に生コン車とセメントローリー車が過積みであるか否かをチェックする」旨通告した。その時点では、警察官は一人も来ていなかった。その後、同日午前一一時七分ころ、セメントを納入に来たセメントローリー車が右工場に入ろうとしたところ、債務者らの組合員は入口前に立ち塞がって同車両が工場に入ることを阻止し、車両は工場に入ることができなかった。その後午前一一時三〇分ころ、債権者からの出動要請を受けた警察官が工場前に到着し、債務者ら組合員と押し問答となった。また同日午後零時一八分ころ、セメントを納入に来たセメントローリー車が石部工場に入ろうとしたところ、債務者ら組合員は、同車両を右工場入口前の公道上に停止させてその前に佇立するなどしてその進行を妨害した。そこで、債権者の従業員は、右警察官とともに、債務者らの組合員を排除して同車両を工場内に入れた。その後午後零時三〇分ころ、警察官は一旦引き上げて行った。さらに同日午後一時八分ころ、臨海資材から来たセメントローリー車がセメントを納入するため石部工場に入ろうとすると、債務者ら組合員が右車両を工場入口前の公道上に停止させてその前に佇立するなどして進行を阻止し、債権者の従業員と押し問答となるなどしたが、駆けつけた警察官が右車両の前にいる債務者ら組合員を排除し、午後一時二七分ころ、同車両は右工場に入ることができた。なお公道上でセメントローリー車を停止させたことにより、他の一般車両の通行に支障が出た。

その後も債務者らの組合員は、債権者の石部工場の入口前にたむろしていたが、同日午後三時ころ、引き上げて行った。なお当日は、セメントローリー車のみの搬入を妨害し、他の生コンクリートミキサー車やダンプカーの運行は妨害しなかった。

二  債務者らは、債権者が主張する「妨害行為」は債務者らが主体となって行ったものではなく、近代化委員会ないし監視する会にかかわる行為に関するものであるから(平成三年一月一九日、同月二六日、同月三〇日、同年二月一二日、同月一九日の行為の主体は近代化委員会で、同年二月一四日の行為の主体は債務者関西生コン支部で、同年二月二二日及び同年三月一二日の行為の主体は監視する会である)、債務者らに当事者適格がないと主張する。

なるほど、近代化委員会の会長である宮脇紀は、近代化委員会は、平成三年一月一四日に、中小企業の育成振興を目的として結成され、会員は、セメント生コン業者で働く者と一部匿名会員の約二〇〇名で構成しているとし、特に生コン業界の安定に努力してきたのであって、債務者らとは目的を異にする別個の団体であると陳述する。また監視する会の会長である中岸昭治は、監視する会は平成元年一一月ころ結成され、生コンの品質を維持し過積載による交通事故を防止するための監視活動を主たる目的とし、構成員も債務者らの組合員のほか、建設関連の労働組合員、関連業界の企業人、市民が参加し、役員も会長、会計、書記が置かれ、活動方針も随時会議を開いて決定しているなど、債務者らとは、別個の社会的活動を目的とする市民運動団体であると陳述する。そして、平成三年三月一二日の活動の際には「交通事故・災害につながる過積載をやめよう」というゼッケンを胸に付けていたことが認められる。

しかし、前記認定のとおり、平成三年一月一九日は松井が、同月二六日は松井と金谷が、同月三〇日及び同年二月一二日には松井が、同月一四日には武委員長と松井が、同月二一日には松井と宮脇が、同月二二日には宮脇が、同年三月一二日には、宮脇、中岸がそれぞれ行動の中心になって参加しているところ、右の者はいずれも債務者関西生コン支部の執行役員であること、同年三月一二日の行動に参加した多くの者が腕に連帯の腕章をしていたところ、その参加者のうち債務者らの組合員以外の者がいたとの証拠はないこと、各会の構成員の内容として、債務者らの組合員が参加していることは明らかであるが、それ以外の会員は具体的に明らかにされていないこと、また監視する会は、申立外三宅組、同間宮組及び同国土総合開発株式会社に対し、それぞれ要請書を郵送しているが、その際いずれも債務者関西生コン支部の封筒を使用し、また監視する会の住所、電話番号、ファックス番号がすべて債務者関西生コン支部のそれらと同一であること(書証略)、さらに後記三で述べるとおり、平成三年三月一二日の行動は、監視する会による過積載の監視を目的とする活動とはいい難く、同年一月から同年三月までの一連の行動は、債権者を生コン組合に強制的にでも加入させる意図の下に行われたものであることなどの事情に照らすと、同年一月から同年三月一二日までの行動は、債務者らの組合員が行ったものであって、債務者らがその主体であるというべきである。また仮に、近代化委員会及び監視する会が存在し、かつ、それらの活動を右各会が行ったものであっても、それは、債務者らが支援団体である近代化委員会及び監視する会に指示して活動させたものということができ、それらの活動の主体が債務者らであることを否定する理由にはならない。

従って、債務者らの右主張は採用しない。

三  債務者らは、債権者が妨害行為と主張する行為は過積載監視活動という社会的に意義のある活動であるところ、平成二年一〇月ころ、債権者の生コンの品質に問題があるという情報が入り、平成三年に入って調査を始めたところ、過積載の実態が明らかとなり、その取引先である臨海資材の過積載も判明したので、債権者らへの監視活動をすることにしたのであり、特に平成三年三月一二日の活動もセメントローリー車の過積載の調査・監視活動を目的としたものであると主張する。

しかし、平成三年三月一二日の行動は、債務者らによって、債権者の使用するセメントの大半を納入していた業者をして債権者へのセメント納入を停止させることができたものの、債権者が生コン組合への加入を拒否し、かつ、債権者へのセメント納入業者である臨海資材が債務者らによる債権者へのセメント納入停止の要請を拒否した後に行われたものであること、同日の債務者ら組合員が停止させた車両は、いずれも外観からは過積載が分からないセメントを運搬するセメントローリーであって、債務者らが過積載の証拠を持っていると述べる生コンミキサー車やダンプカーは対象になっていなかったこと、その他平成三年一月からの債務者ら組合員の言動などからすると、債務者らは、債権者へのセメント納入を停止させることにより債権者へ圧力をかけ、生コン組合へ強制的に加入させようとした意図が窺える。

また平成三年三月一二日の活動をみると、過積載を取り締まる権限のない債務者ら組合員が外観から過積載の有無が分からないセメントローリー車のみを石部工場の入口前の公道上に停止させて伝票の提示を求めたうえ、進行しようとする同車両の前に多数の債務者ら組合員が佇立してその進行を妨害したものであって、到底適法な監視活動ということもできない。(債務者らが、債権者の行っている過積載の証拠を持っているのであれば、警察に通報してその取締りを求めるべきであるところ、警察が平成三年三月一二日に債権者の過積載を取り締まったことはない。また過積載の証拠を持っていないのであれば、その過積載の監視活動は、相手の協力を得て過積載の有無を調査する限度に止めるべきであって、公道上で多数の者が車両の前に佇立して停止させ、他の交通の妨げとなる方法で行うことは、監視活動としても許容限度を超えたものといわざるを得ない)

なお債務者らは、平成三年三月一二日に現場が混乱したのは、債務者らの監視活動に対し、債権者が挑発して混乱することを作出した結果であるとも主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

従って、債務者の一連の行動から推認される意図や行動の態様に照らし、平成三年三月一二日の行動は、債務者らが債権者に対し生コン組合へ強制的に加入させる目的で、債権者の営業活動を妨害したものであって、適法な過積載の監視活動であったということはできないので、債務者らの右主張も採用することができない。

四  そうすると、債務者らが債権者を生コン組合に強制的に加入させる目的で、過積載の監視活動という名の下にセメントローリー車の運行を妨害することは、債権者の営業活動を違法に侵害するものであって、債権者は、その営業権に基づき、右のような債務者らの違法な営業妨害行為の差止めを求めることができるというべきである。

そして、現時点でも、債権者が生コン組合に加入していない状況では、債務者らが債権者に対し同様な営業妨害行為をするおそれがあり、かつ、セメントその他生コンの原材料の搬入や生コンの搬出が妨害されると、その営業に重大な損害が生ずるおそれがあるので、保全の必要性もあるということができる。

五  以上のとおり、本件仮処分命令申立ては理由があるので、債権者が主文掲記の担保をこの決定の送達を受けた日から七日以内に立てることを条件としてこれを認容し、申立費用の負担について民事保全法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 大段亨)

別紙(略)

《省令》

労働省令第二十五号

育児休業等に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条、第三条第一項及び第三項、第四条第二項及び第三項、第五条第二項及び第三項、第六条第二項、第八条、第十条、第十二条第三項並びに第十五条の規定に基づき、育児休業等に関する法律施行規則を次のように定める。

平成三年十月十五日

労働大臣 小里貞利

育児休業等に関する法律施行規則

(法第二条第一項の労働省令で定める特別の事情)

第一条 育児休業等に関する法律(以下「法」という。)第二条第一項の労働省令で定める特別の事情がある場合は、次のとおりとする。

一 法第二条第二項の休業申出(以下「休業申出」という。)をした労働者について労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項又は第二項の規定により休業する期間(以下「産前産後休業期間」という。)が始まったことにより法第六条第一項の育児休業期間(以下「育児休業期間」という。)が終了した場合であって、当該産前産後休業期間又は当該産前産後休業期間中に出産した子に係る育児休業期間が終了する日までに、当該子のすべてが、次のいずれかに該当するに至ったとき。

イ 死亡したとき。

ロ 養子となったことその他の事情により当該労働者と同居しないこととなったとき。

二 休業申出をした労働者について新たな育児休業期間(以下この号において「新期間」という。)が始まったことにより育児休業期間が終了した場合であって、当該新期間が終了する日までに、当該新期間の育児休業に係る子のすべてが、前号イ又はロのいずれかに該当するに至ったとき。

(休業申出の方法等)

第二条 休業申出は、次に掲げる事項を記載した休業申出書を事業主に提出することによって行わなければならない。

一 休業申出の年月日

二 休業申出をする労働者の氏名

三 休業申出に係る子の氏名、生年月日及び前号の労働者との続柄(休業申出に係る子が当該休業申出の際に出生していない場合にあっては、当該休業申出に係る子を出産する予定である者の氏名、出産予定日及び前号の労働者との続柄)

四 休業申出に係る期間の初日(以下「休業開始予定日」という。)及び末日(以下「休業終了予定日」という。)とする日

五 休業申出をする労働者が当該休業申出に係る子でない子であって一歳に満たないものを有する場合にあっては、当該子の氏名、生年月日及び当該労働者との続柄

六 休業申出に係る子が養子である場合にあっては、当該養子縁組の効力が生じた日

七 第一条各号に掲げる事情がある場合にあっては、当該事情に係る事実

八 第六条各号に掲げる事由が生じた場合にあっては、当該事由に係る事実

九 第十五条各号に掲げる事情がある場合にあっては、当該事情に係る事実

2 事業主は、前項の休業申出があったときは、当該休業申出をした労働者に対して、当該休業申出に係る子の妊娠、出生若しくは養子縁組の事実又は同項第七号から第九号までに掲げる事実を証明することができる書類の提出を求めることができる。

3 休業申出に係る子が当該休業申出がされた後に出生したときは、当該休業申出をした労働者は、速やかに、当該子の氏名、生年月日及び当該労働者との続柄を書面で事業主に通知しなければならない。この場合において、事業主は、当該労働者に対して、当該子の出生の事実を証明することができる書類の提出を求めることができる。

(法第三条第一項第二号の労働省令で定める者)

第三条 法第三条第一項第二号の労働省令で定める者は、次の各号のいずれにも該当する者とする。

一 職業に就いていない者(育児休業その他の休業により就業していない者及び一週間の就業日数が著しく少ないものとして労働大臣が定める日数以下の者を含む。)であること。

二 負傷、疾病又は精神若しくは身体の障害により休業申出に係る子を養育することが困難な状態にある者でないこと。

三 六週間(多胎妊娠の場合にあっては、十週間)以内に出産する予定であるか又は産後八週間を経過しない者でないこと。

四 休業申出に係る子と同居している者であること。

(法第三条第一項第三号の労働省令で定める者)

第四条 法第三条第一項第三号の労働省令で定める者は、次のとおりとする。

一 休業申出があった日から起算して一年以内に雇用関係が終了することが明らかな者

二 一週間の所定労働日数が著しく少ないものとして労働大臣が定める日数以下の労働者

三 休業申出に係る子の親であって当該休業申出をする労働者又は当該労働者の配偶者のいずれでもない者であるものが前条各号のいずれにも該当する場合における当該労働者

(法第三条第一項ただし書の場合の手続等)

第五条 法第三条第一項ただし書の規定により、事業主が労働者からの休業申出を拒む場合及び育児休業をしている労働者が同項ただし書の育児休業をすることができないものとして定められた労働者に該当することとなったことにより育児休業を終了させる場合における必要な手続その他の事項は、同項ただし書の協定の定めるところによる。

(法第三条第三項の労働省令で定める事由)

第六条 法第三条第三項の労働省令で定める事由は、次のとおりとする。

一 出産予定日前に子が出生したこと。

二 休業申出に係る子の親である配偶者(以下「配偶者」という。)の死亡

三 配偶者が負傷又は疾病により休業申出に係る子を養育することが困難になったこと。

四 配偶者が休業申出に係る子と同居しなくなったこと。

(法第三条第三項の労働省令で定める日)

第七条 法第三条第三項の労働省令で定める日は、休業申出があった日の翌日から起算して一週間を経過する日とする。

(法第三条第三項の指定)

第八条 法第三条第三項の指定は、休業開始予定日とされた日(その日が休業申出があった日の翌日から起算して三日を経過する日後の日である場合にあっては、当該三日を経過する日)までに、休業開始予定日として指定する日を記載した書面を休業申出をした労働者に交付することによって行わなければならない。

(休業開始予定日の変更の申出)

第九条 法第四条第一項の休業開始予定日の変更の申出(以下この条及び第十一条において「変更申出」という。)は、次に掲げる事項を記載した変更申出書を事業主に提出することによって行わなければならない。

一 変更申出の年月日

二 変更申出をする労働者の氏名

三 変更後の休業開始予定日

四 変更申出をすることとなった事由に係る事実

2 事業主は、前項の変更申出があったときは、当該変更申出をした労働者に対して、同項第四号に掲げる事実を証明することができる書類の提出を求めることができる。

(法第四条第二項の労働省令で定める期間)

第十条 法第四条第二項の労働省令で定める期間は、一週間とする。

(法第四条第二項の指定)

第十一条 法第四条第二項の指定は、変更後の休業開始予定日とされた日(その日が変更申出があった日の翌日から起算して三日を経過する日後の日である場合にあっては、当該三日を経過する日)までに、休業開始予定日として指定する日を記載した書面を変更申出をした労働者に交付することによって行わなければならない。

(法第四条第三項の労働省令で定める日)

第十二条 法第四条第三項の労働省令で定める日は、休業申出において休業終了予定日とされた日の一月前の日とする。

(休業終了予定日の変更の申出)

第十三条 法第四条第三項の休業終了予定日の変更の申出(以下この条において「変更申出」という。)は、次に掲げる事項を記載した変更申出書を事業主に提出することによって行わなければならない。

一 変更申出の年月日

二 変更申出をする労働者の氏名

三 変更後の休業終了予定日

(休業申出の撤回)

第十四条 法第五条第一項の休業申出の撤回は、その旨及びその年月日を記載した書面を事業主に提出することによって行わなければならない。

(法第五条第二項の労働省令で定める特別の事情)

第十五条 法第五条第二項の労働省令で定める特別の事情がある場合は、次のとおりとする。

一 配偶者の死亡

二 配偶者が負傷、疾病又は精神若しくは身体の障害により休業申出に係る子を養育することが困難な状態になったこと。

三 婚姻の解消その他の事情により配偶者が休業申出に係る子と同居しないこととなったこと。

(法第五条第三項の労働省令で定める事由)

第十六条 法第五条第三項の労働省令で定める事由は、次のとおりとする。

一 休業申出に係る子の死亡

二 休業申出に係る子が養子である場合における離緑又は養子縁組の取消

三 休業申出に係る子が養子となったことその他の事情により当該休業申出をした労働者と当該子とが同居しないこととなったこと。

四 休業申出をした労働者が、負傷、疾病又は精神若しくは身体の障害により、当該休業申出に係る子が一歳に達するまでの間、当該子を養育することができない状態になったこと。

(法第六条第二項第一号の労働省令で定める事由)

第十七条 前条の規定は、法第六条第二項第一号の労働省令で定める事由について準用する。

(本第八条第一項第三号の労働省令で定める事項)

第十八条 法第八条第一項第三号の労働省令で定める事項は、次のとおりとする。

一 法第六条第二項第一号に掲げる事情が生じたことにより育児休業期間が終了した労働者の労務の提供の開始時期に関すること。

二 労働者が育児休業期間について負担すべき社会保険料を事業主に支払う方法に関すること。

(法第八条第二項の取扱いの明示)

第十九条 法第八条第二項の取扱いの明示は、休業申出があった後速やかに、当該休業申出をした労働者に係る取扱いを明らかにした書面を交付することによって行うものとする。

(法第十条の措置)

第二十条 法第十条の措置は、次の各号に掲げるいずれかの方法により講じなければならない。

一 法第十条の労働者(以下この項において「労働者」という。)であって当該勤務に就くことを希望するものに適用される短時間勤務の制度を設けること。

二 当該制度の適用を受けることを希望する労働者に適用される次に掲げるいずれかの制度を設けること。

イ 労働基準法第三十二条の三の規定による労働時間の制度

ロ 一日の所定労働時間を変更することなく始業又は終業の時刻を繰り上げ又は繰り下げる制度

三 所定労働時間を超えて労働しないことを希望する労働者について所定労働時間を超えて労働させない制度を設けること。

四 労働者の一歳に満たない子に係る託児施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与を行うこと。

(権限の委任)

第二十一条 法第十二条第二項に規定する労働大臣の権限は、労働大臣が全国的に重要であると認めた事案に係るものを除き、事業主の事業所の所在地を管轄する都道府県婦人少年室の長が行うものとする。

附則

この省令は、平成四年四月一日から施行する。

《告示》

労働省告示第七十三号

育児休業等に関する法律(平成三年法律第七十六号)第十二条第一項の規定に基づき、事業主が講ずべき措置に関する指針を次のように定め、平成四年四月一日から適用することとしたので、同項の規定に基づき告示する。

平成三年十月十五日

労働大臣 小里貞利

労働省告示第七十四号

育児休業等に関する法律施行規則(平成三年労働省令第二十五号)第三条第一号及び第四条第二号の規定に基づき、同令第三条第一号の労働大臣が定める日数及び同令第四条第二号の労働大臣が定める日数は、二日とし、平成四年四月一日から適用する。

平成三年十月十五日

労働大臣 小里貞利

事業主が講ずべき措置に関する指針

育児休業は、子を養育する労働者の雇用の継続を促進するための制度であり、法律上の保障のみならず、様々な側面からその実効性の確保を図ることにより我が国社会に定着させる必要がある。

また、育児休業以外の就業しつつ子を養育することを容易にするための措置は、育児をしながら職場において自らの能力を継続して発揮することを望む労働者にとって、そのニーズに対応した選択を可能とする意味で育児休業と同様に重要な役割を果たすものである。

育児休業等に関する法律(以下「法」という。)においては、このような認識の下に、一歳に満たない子を養育する労働者について、育児休業の権利を実効あらしめるために事業主が講ずるように努めなければならない措置及び就業しつつ子を養育することを容易にするために事業主が講じなければならない措置が、また、一歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者について、事業主が講ずるように努めなければならない措置が、それぞれ定められている。労働大臣又はその委任を受けた都道府県婦人少年室長は、それらの措置が適切かつ有効に実施されるよう事業主に対して必要な助言、指導又は勧告を行うものである。

この指針は、以上の原則の下に、事業主がそれぞれの措置を講ずるに当たっての重要事項を定めるものである。

1 法第八条第一項の規定により育児休業に関する事項を定め、周知するに当たっての事項

(1) 法第八条第一項各号に掲げる事項に関する定めは、労働者が法に基づく育児休業の権利を行使したことを理由として当該労働者を不利益に取り扱うものであってはならないものであること。

(2) 就業規則において大綱、要旨を規定するとともに、具体的な委任規定を設け、当該規定に基づき育児休業中の待遇、育児休業後の賃金、配置その他の労働条件その他必要な事項に関する規則を一括して定め、周知することが望ましいものであることに配慮すること。

2 法第八条第二項の規定により休業申出をした労働者に対しその取扱いを明示するに当たっての事項

当該取扱いは、当該労働者が法に基づく育児休業の権利を行使したことを理由として当該労働者を不利益に取り扱うものであってはならないものであること。

3 法第九条の規定により育児休業をする労働者が雇用される事業所における労働者の配置その他の雇用管理に関して必要な措置を講ずるに当たっての事項

(1) 労働者が法第二条第一項の規定による育児休業の申出を行うことができないようにすることを目的として、当該労働者を常時三十人を超える労働者を雇用する事業所から常時三十人以下の労働者を雇用する事業所に配置転換をすることがあってはならないものであること。

(2) 育児休業後においては、原則として原職又は原職相当職に復帰させることが多く行われているものであることに配慮すること。

(3) 育児休業をする労働者以外の労働者についての配置その他の雇用管理は、(1)及び(2)の点を前提にして行われる必要があることに配慮すること。

4 法第九条の規定により育児休業をしている労働者の職業能力の開発及び向上等に関して必要な措置を講ずるに当たっての事項

(1) 当該措置の適用を受けるかどうかは、育児休業をする労働者の選択に任せられるべきものであること。

(2) 育児休業が比較的長期にわたる休業になり得ること、及び育児休業後における円滑な就業のために必要となる措置が、個々の労働者の職種、職務上の地位、職業意識等の状況に応じ様々であることにかんがみ、当該労働者の状況に的確に対応し、かつ、計画的に措置が講じられることが望ましいものであることに配慮すること。

5 法第十条の規定により労働者が就業しつつその子を養育することを容易にするための措置を講ずるに当たっての事項

(1) 労働者が当該措置の適用を受けることを申し出たこと又は当該措置の適用を受けたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないものであること。

(2) 当該措置は、労働者が希望する期間を超えてその意に反して適用されるものであってはならないものであること。

(3) 短時間勤務の制度は、労働者が就業しつつその子を養育することを実質的に容易にする内容のものであることが望ましいものであることに配慮すること。

6 法第十一条の規定により育児休業の制度又は法第十条に定める措置に準じて必要な措置を講ずるに当たっての事項

(1) 当該措置の適用を受けるかどうかは、労働者の選択に任せられるべきものであること。

(2) 一歳から小学校就学の始期に達するまでの子のうち年齢の低い子を養育する労働者の方が一般的に当該子を養育するために当該措置の適用を受ける必要性が高いと考えられることに留意しつつ、労働者の子の養育をめぐる環境、労働者の勤務の状況等を総合的に勘案して、育児休業の制度又は法第十条に定める措置に準じた措置のうちより必要性の高い措置がより早期に講じられることが望ましいものであることに配慮すること。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例